●「続・知られざる日豪関係」(739)

「─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


 ”よき羊飼い”


 彼が得ていた収入のほとんど全額は住民に還元されていた。
 また彼はカトリックの信徒だけをひいきにすることなく、プロテスタントの信徒も異教徒も同じ教育と同じ医療を彼から受けることができた。
 その上、神父は彼らの複雑きわまるガリ方言を完全に習得していた。
 現住民たちはしだいに彼に戦争に関することがらで助言を求めるようになった。
 ほかのことはどうでもよかったが、戦争の成行きは彼らの生活と深いかかわりがあった。
 とはいえ大多数の住民は国家の概念など持っていなかったので、「日本」とか「アメリカ」といった言葉は何の意味ももたなかった。