●「続・知られざる日豪関係」(809)

「─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


 ”新しい目と耳”


「われらその亡骸(なきがら)を城壁に急ぎ運びしとき、太鼓の音はきかれず、とむらいの歌もなかりき」
 幸いにも、陰気な物思いにふける時間は短かった。
 行程の半分くらい進んだところで強い逆流につかまり、岸から押し流されてしまった。
 暗礁につくまで懸命に漕いで三時間もかかったが、中に入る水路が見つからなかった。
 夜明けが近づいていたので、彼らは絶望的になり、思いきって暗礁の上をまっすぐに突き進んだ。
 岸までの五〇ヤードでびしょ濡れになり、サンゴ礁の穴に落ちこんだりつまづいたりしながら進んだ。
 夜明けまでに、何とかたどりついてボムボートのほかは全部を無事に隠し終えた。
 ボートは暗礁の上にひっかかって残り、その大きな黄色い名札が彼らの上陸成功を証明していた。