●「続・知られざる日豪関係」(883)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ



 つまり上空を旋回するアメリカ軍の写真偵察機からは、きちんと並んだ農園の木々がいつもと変わらず見えるだけというわけだ。
 写真解読家たちの鋭い目が真相に気づいたのは一二月五日よりあとのことで、その時までに滑走路は事実上完成していたのである。
 セギ・ポイントのドナルド・ケネディにとって、それは、頭痛の種が一つ増えたことを意味した。
 彼はムンダのほかに、本部のウィカム泊地、北部のラマダ島、はるか西方のコロンバンガラ島にあるビラ農園に新たに上陸した日本軍を監視せねばならなかった。
 彼はまたわずか九マイルしか離れていないビルから出てくる意欲的な日本軍の偵察隊にも対抗する必要があった。

 ●「続・知られざる日豪関係」(882)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 運ばれている積荷に関する彼らの報告に基いて、彼はKEN局にあてて一二月一日頃打電した。
日本兵はセメントなどの重量物を上陸させているらしい。
 ムンダ岬に飛行場を作るための資材かと思われる」
 飛行場だという判断は正確だった。
 田中少尉の大船団が壊滅したこともガダルカナル奪還を狙う日本の希望を断念させるものではなかった。
 しかし東京はそのためには制空権を持たなくては何もできないと悟ったのである。
 陸軍と海軍の新しい共同作戦によって飛行機の数は確保できたが、距離の問題が残っていた。
 ブカやカヒリの飛行場およびレカタ湾の新しい水上機基地は有力な戦力となったが、まだ十分ではない。

 ●「続・知られざる日豪関係」(881)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 ルビアナ礁湖内の小島を根拠に、彼は三〇人の斥候をとりしきっていたが、その中のだれ一人何が起こっているかを正確に判断した者はいなかった。
 日本軍は警戒心が強く、現住民の労働力を使うことさえしなかった。
 できるだけ近くまで這っていった偵察隊たちは、どんどん船が着いて装備を陸揚げしている・・・・・・
 建設隊がつるはしやシャベルで働いている・・・・・・
 ほかのものは忙しそうに木を切り倒している、といったていどの報告しかできなかった。
 最初の糸口をつかんだのはNRY局だった。
 ムンダへ向う日本の舟艇は、日中はベララベラ島沿岸に隠れる習慣があった。
 それをジョスリンの現住民たちが近くから気づいたのである。

 ●「続・知られざる日豪関係」(880)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 将校は二人を放したが、次の朝戻って報告するように命じたのちつけ加えた。
「うそを言ったら首を切るぞ」
 だが、日本軍の将校はお人好しにすぎたようだ。
 アレササとソロモンはジャングルに逃げこみ、丘陵地帯にいる家族たちの所へ戻った。
 避難者たちはドナルド・ケネディの斥候と接触があり、日本軍がムンダに兵力を上陸させたという知らせはすぐにセギ・ポイントへ届いた。
 この時点では、それがケネディの知りえた情報のすべてだった。
 ニュージョージア島西部にいた彼の忠実な部下のウィリー・パイアはこの事実をまったく知らなかった。 

 ●「続・知られざる日豪関係」(879)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 アレササ・ビシリとソロモン・ヒツの二人は、その集落で残っていた数少ない現住民だった。
 二、三週間前、何かを見るとすぐ射ちたがるアメリカ軍戦闘機のパイロットたちが集落を機銃掃射したので、住民の多くは山の中に逃げこんだのである。
 軍艦が午後五時頃伝道所の沖に投錨し、そのうちの一隻が烽火をあげたのは七時近くだったらしい。
 上陸作戦が始まり、二人の少年は一晩中、小舟が部隊や物資を運ぶのを見守っていた。
 あまり夢中になって、偵察隊が近づいてくるのにも気づかなかった。
 たちまち二人はつかまって少し英語の話せる将校のところへ連れてゆかれ、どこに白人がいるか、と聞かれた。
 少年はみんな行ってしまったと答えた。

 ●「続・知られざる日豪関係」(878)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 見た目にも痛そうなレヴィ中尉の姿を見て、マール・ファーランドはいよいよ出発するとき、いつものすばやい手さばきで、モルヒネを尻に一本打ってやった。
 注射一本するだけにしてはひどく長い行軍になったわけだが、はるかに重要なのはこの迅速な救出物語が、ジョスリンの仕事の有効さを証明したことである。 
 不時着事件がすぐに報告され、救助機がそくざにやってきたのは、見事な連携プレーと言うべきだった。
 それから六日後に東方八〇マイルの場所で予期しない日本軍の動きが起こり、それはふたたびベララベラ隊の有能さを証明する好機会となる。
 一一月二四日午後のことだったが、日本の軍艦が何隻か、ニュージョージア島の南西海岸ムンダ岬に近づくのを、二人のメソジスト伝道所学校の生徒が眺めていた。

 ●「続・知られざる日豪関係」(877)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 彼女が飛行士たちのいるサイラスの家に着くと、ジョスリンは手短かに負傷者のことを話した。
 PBYが今にも来そうな話だったので、彼女はレヴィ中尉の股の傷には触れないでおくことにした。
 うまくいけば、二、三時間で病院の手当てが受けられるだろうと思った。
 彼女はソンダーズに手当てしようと頭の包帯をほどきはじめた途端、飛行機の近づく爆音がした。
 患者たちはようすを見に外へとび出していった。
 それはワイルドキャット戦闘機三機に護衛されたPBY飛行艇だった。
 戦闘機が旋回していう間に大型の飛行艇が海岸から一〇〇ヤードばかりの沖に見事に着水した。
 ぐずぐずしてはいられない ── 日本機がいつ現われるか分らなかった。
 カヌーが出され、飛行士たちが乗りこんだ。