●「続・知られざる日豪関係」(876)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 川につき当ると、彼女はガイドの肩車に乗り、ほかのものはいつでも助けられる用意をして、一団になって渡った。
 渡るとまた長い徒歩行進がつづき、苦しい行軍になって三人のガイドははるかに遅れてしまった。
 彼女はようやく正午にスパトという小さな集落についたが、それまで実に一四マイル以上を歩いて来たのだった。
 ここでカヌーに乗りかえ、さらに海岸ぞいに登りつづけた。
 飛行機が頭上を徘徊していた。
 それはアメリカ機の爆音だったが、彼女は念を入れて現住民の傘をさした。
 ヘンリー・ジョスリンは、午後三時ごろ彼女がパラマタに着いたとき岸辺で待っていた。
 夜の間に彼はキーナンと交代して、見張所から降りて来たのだった。

 ●「続・知られざる日豪関係」(875)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 伝令が伝道所への小道をあえぎながら登って来たのは一九日の午前三時半であった。
 事態が分ると、シルヴェスター師はマール・ファーランドの宿舎へ急いだ。
 彼はここで負傷者を受け入れる用意をしている間に、医療品をいくらか持ってパラマタに行くつもりだと言うと、彼女は、「それでは全然だめです」、ときびきびした調子で反論した。
 彼女は自分で行くと主張し、すばやく救急箱をそろえ、現住民のガイドを四人集め、お茶を一杯のむと午前六時に出発した。
 最初はでこぼこしてはいるがよく切り開かれた小道だったが、そのうち道は尽き、彼女は何マイルも何マイルも、岸べの岩をたどりながら歩いていった。
 小雨が降っていたので丸っこい石はすべりやすかった。

 ●「続・知られざる日豪関係」(874)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 次の仕事は、搭乗員全員をベララベラ島へ移すことであった。
 その方が、食事、治療、連絡の点でも、最終的な救出のためにも好都合と思われた。
 日中は日本の偵察機が多くて危険なので、暗くなってから彼らは漕ぎ出して、サイラス・レザツニがいるパラマタ集落に上陸したが、豪胆な酋長はいつもと変わらずいろいろと骨を折って世話をしてくれた。
 彼はどこからか毛布や食事やおまけにナイフやフォークまで探して来てくれた。
 その間に伝令が何人も派遣された。
 一人は見張所へかけつけて、ジョスリンに今までのことを知らせたので、彼はKEN局と連絡して、彼らを拾ってもらう打合わせをすませた。  
 別の一人は海岸を下り、島を横断してビルアのシルヴェスター師のもとへ走った。

 ●「続・知られざる日豪関係」(873)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 一時間たつと、また別のカヌーがやって来た。
 ふたたびソンダーズは一人で出て行ったが、カヌーが近づくにつれて、その中に白人が乗っていることが分り、助かったとさとった。
 ジャック・キーナンが岸におり立って自己紹介し、おそらく沿岸監視員の作法としては上等すぎるエチケットに違いないが、金髪のソンダーズに名刺を差し出した。
 その朝新しい現住民が一人かけこんで来て、大きなアメリカの飛行機が落ちて、生存者が近くのバガ島にいるようだと知らせた時、キーナンは監視所で当直についているところだった。
 ジョスリンが無線機のそばに残り、キーナンは救急箱をもって現場へ急いだ。
 そして、不時着から三時間後の今はK糧食(レーション)と包帯を配っているという次第だった。

 ●「続・知られざる日豪関係」(872)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 間もなく、現住民のカヌーが二マイル向うの大きな島から漕ぎ出して近づいてくるのが見えた。
 有効的か非友好的か? 判断する方法はなかったが、“金髪あたま”のソンダーズは、自分たちが日本軍の支配領域深く入りこんでいることは知っていた。
 そこで用心のため、搭乗員を木や茂みの後ろに隠し、最後まで戦うようピストルを準備させた。
 それから彼は話し合いをするため一人で岸へ出ていった。
 現住民はだれも英語が話せなかった。
 しかし彼がのどがかわいたという身振りをすると、そのうちの一人がリスのように木にのぼり、ココナツの実をいくつか落してくれた。
 それから彼らはカヌーに戻り、すぐに行ってしまった。

 ●「続・知られざる日豪関係」(871)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 今までのところ日本軍はあまり活動的でなかったが、デネオからは彼らのしていることが何でもよく見えて、逐一報告された。
 島のほかの場所で起こったことは、ジョスリンの作った現住民たちの連絡網によって十分カバーされた。
 彼と酋長たちの会談は大成功で、全員が協力を約束していたのだ。
 具体的には哨所を海岸沿いの一四ヵ所に設けた。
 哨所には常時だれかがいなくてはならないが、畑仕事の邪魔にならないよう当番表が作成された。
 見張員は飛行機や船のあらゆる動き、敵の上陸、いかなる墜落機についてもすべてを報告するよう要求されていた。
 初仕事は、一一月一八日に起こった。
 その日ラヴァ―ン・ソンダーズ大佐が一八機のB - 17を率いてスロットを上り、ブイン爆撃に向った。

 ●「続・知られざる日豪関係」(870)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 そこからは北と西の方向が広く見渡せるのだった。
 尾根の反対側、約四〇〇ヤード南に、彼はジョスリンと自分と無線機のための木の葉小屋を用意していた。
 日本軍が方向探知装置を使用したとしても、それを妨害してくれるかも知れぬ丘が前面にあった。
 はるか下の方、北西約三マイルのイリンギラに日本軍の駐屯地がはっきり見えた。
 キーナンは何度か偵察に出たが、一度五〇〇ヤードまで近づいて施設を注意深く観察して来たことがあった。
 波形鉄板の屋根のある大きな建物で、他に小型の貯蔵庫など・・・・・・また二本のココナツの木の間に見張台があった。
 台の上には大型の双眼鏡が立ててあり、キーナンは大いにうらやましがった。